キミドリとは?

引用元:last fm さん

日本語ラップを熱心に聴く人なら「自己嫌悪」という言葉を聞いたことがあるだろう。

もし聞いたことがなくても、気になる人はぜひこのまま読み進めてほしいと思う。

今回紹介するのは、1991年から1996年のわずか5年間しか活動しなかったラップグループ「キミドリ」だ。

なぜ、短期間しか活動していないグループを紹介するのかというと、

先人たちが作り上げてきた風潮を、真逆の切り口で表現したから。

この一言に尽きるだろう。

彼らが登場した、90年代のヒップホップシーンは、社会的なメッセージ性が強く、社会問題に対する、批判が多かった時代だった。

「ボースティング」というヒップホップ特有の文化もあいまって、強気な姿勢で、自分を誇示し、表現するというスタイルが、日本に浸透したのもこの時代だ。

このボースティングは、ブッダや、キングギドラ、ライムスターに至るまで、ほとんどのラッパーが取り入れ、現在でも受け継がれているスタイルなのである。

そのため、今も昔もカッコ良さとは「何にも屈しない強さ」思われているのだが、

そんな風潮とは真逆で、一切トゲがなく、オリジナルの路線でラップをするグループが現われたのだ。

それが、ほかでもない「キミドリ」だった。

キミドリが登場するや否や、ヒップホップファンたちはもちろんのこと、ストリートで活動する若者たち、そして…

シーン最前線のラッパーたちから、賞賛を浴び、嫉妬されるという、異質な現象、キミドリセンセーションが巻き起こるのだった。


キミドリの特徴

1980年後半にラッパーが登場してからというもの、ラッパーは多くの若者たちの気持ちを代弁してくれる、いわば心の拡声器のような存在だった。

社会に屈服するな!世間を俺たちが変えてやる!という強いメッセージに加え、本場のヒップホップを知らないやつはワック(ダサい)だ!ってな具合に、

誰もがリアルを追求することに躍起になっていた。

だが、そういうのもリアルなんだけど、
弱い自分の内面もリアルなんじゃない?
と、主張したのが、キミドリだったのだ。

思春期真っ盛りの男子なら、誰しもが経験するような自己の内面をさらけ出す、真っ直ぐなリリックをラップに落とし込んだことが、

ダンサーやグラフィティライター、スケーターなど、ストリートで肩肘張っている生きている若者の心にぶっ刺さったというわけだ。

キミドリがプロップス(支持)を得たのは、ラップだけではない。

もうひとつ大きな理由が存在する。

それは、90年代のヒップホップで多用されていた、ブーンバップ(図太いドラムビート)系のビートも使用するが、

レゲエやダブに見られるような、オフビート(アクセントのない拍)を駆使したりと、ビートもジャンルレスだったのだ。

カッコよさとは人それぞれ。

このコンセプトのもと、楽曲制作をしていたのではないか?僕は、そう思わずにはいられないのだ。

そろそろ、彼らの楽曲が、かなり気になってきたことだろう。

メンバー紹介を経て、彼らの楽曲を早速チェックしていこう。



キミドリのメンバー

引用元:last fm さん

キミドリは、90年代の主流であった2MC&1DJのスタイルで構成されている。

キミドリ」のメンバー
クボタタケシ (MC)
・KURO-OVI (MC)
・DJ MAKOTO (DJ)


彼らの主な活動内容は、

1992年にECDが主催していた「CHECK YOUR MIKE」というコンテストに出場し注目され、

スチャダラパーやTOKYO No1 SOUL SETが企画したクルー「Little Bird Nation (リトル バード ネーション)」に、日本人でありがながら、なぜか、外国人枠として参加。

主にライムスターMICROPHONE PAGERが出演していたフリースタイルイベント「スラムダンクディスコ」に参加し、腕を磨いていたそうだ。

その一方で、下北沢のスケーターやグラフィティアーティスト達との親交があり、音楽だけにとどまらず、ヒップホップという文化の中で活動を続けていた。




クボタタケシ

引用元:クボタタケシ オフィシャル さん

【名前】クボタ タケシ

【本名】久保田 武

【生年月日】1970年 1月19日

【パート】Mic

【出身】不明

【経歴】言わずと知れた、キミドリの中心人物であり、キミドリの楽曲のほとんどをクボタ タケシが行っており、思春期、真っ只中の内面を見事に表現したリリックも、彼が書いている。

キミドリでの活動中もリミックスやMIX CDの制作に打ち込み「オールジャンル」という言葉を日本で広めたのは、クボタタケシだと言われるほどのボーダーレスビートメイカーだ。

ジャンルに囚われないミックスを施される楽曲たちは、クボタタケシのオリジナルと呼んでも過言ではない完成度を誇り、まさにオールジャンルのパイオニア的存在。

1997年に、TOKYO No. 1 SOUL SETのボーカルである渡辺俊美と組んでミニアルバム「TIME」をドロップ。

このトラックは、ヒップホップの香りを残したまま、枠を飛び出し、別ジャンルの音楽へと昇華させ、音楽シーンに広く知れ渡ることとなる。

そして、1998年には初のミックステープシリーズ「CLASSICS」をドロップし、国内外で凄まじい評価を得る。

このシリーズのミックステープは、オークションサイトなどで高値で取引され、高い時には5~6万の値を付けるほど、タイトル通りのクラッシック(名盤)となっている。

特定のジャンルのスペシャリストではないものの、多様さは群を抜いており、そのプレイリストは専門誌を始め、同業者、フォロワー、全国のレコードストア等によって分析・研究され、ジャンルレスミュージックを語る上で、必ず名前があがるほど。

現在もDJ、サウンドクリエイター、プロデューサーとして現役バリバリで活動中だ!




KURO-OVI (クロオビ)

引用元:Mastered さん

【名前】KURO-OVI a.k.a DJ 1-Drink (ワンドリンク)

【本名】石黒 景太 (イシグロ ケイタ)

【生年月日】1971年

【パート】Mic

【出身】東京都

【経歴】キミドリの中でも異才を放ち、あの「SHAKKAZOMBIE」の名づけ親でもあり、メンバーのHIDE-BOWIEのラッパー名義を名付けたことでも有名。

グラフィティライターや、スケーターとも交流が深く、キミドリの楽曲が、ヘッズたちから絶大な共感を得たことは、間違いなくKURO-OVIという人間力が大きく関わっていたことだろう。

キミドリの活動休止後、1996年~2002年までの間に、デザイナーとして活動している、阿部周平、筒井良らとともに、グラフィティアート・デザイナー集団「ILLDOZER(イルドーザー)」を結成する。

ILLDOZERでは、アルバムのジャケットメイクなどを行い、裏方としてのプロデュース業も行っていた。

余談だが、NISHIMOTO IS THE MOUTHの預言者でもある、西本氏はこのILLDOZERが大好きで、フィギアを何体も保持しているほどのフリークなんだとか。

また、同ILLDOZERのメンバーだった、阿部周平とのDJユニット「JAYPEG」を結成し、DJ活動をしたり、工藤キキとのデザイナーユニット「YOUNG AND ROBOT」としても絶賛活動中だ!



DJ MAKOTO (マコト)

引用元:VINYL DEALER さん

【名前】DJ MAKOTO a.k.a MAKO

【本名】青木誠 (アオキ マコト)

【生年月日】不明

【パート】DJ、トラックメイカー

【出身】不明

【経歴】クボタ タケシとKURO-OVIと共に、キミドリを結成。

それ以外の情報がほとんどない。という謎の人物。

現在はテクノ系のDJとして活動しており、年に数回、自身の主催するイベントを開催しているらしいのだが、彼の活動内容を把握することが出来なかった…

本人の画像も見つけることが出来なかったので、彼の唯一の作品でもある「MOOD BREAKS」を掲載させて頂いた。

限られた情報ではあるが「MOOD BREAKS」の作品紹介をしておこう。

MOOD BREAKS
1. 冷たい雨
2. ミッドナイトプロムナード
3. ドラマティクス
4. THE STRENGE KIND OF POTMAN
5 テルミンが泣いてる
06 終わりのIMAGE
07 STONER BEATS

全曲インストながら、キミドリの名に恥じないセンスを遺憾なく発揮した和モノ使いが粋な楽曲だ。

90年代中期にして、派手な展開もループで聴かせる、いわゆるブレイクビーツ的な作りも当時の日本では最先端をいっていたと思われる。

エンジニアには、ILLCUT TSUBOIを迎え、唯一無二の作品に仕上がっている。



キミドリの楽曲

引用元:last fm さん

お待ちかね。
キミドリの楽曲を紹介していこう。

ここから、今回のテーマでもあった、ラッパーたちが憧れたキミドリの正体を明らかにしていくことにする。

語るよりも聴け!が正直な意見だが、聴く前の予備知識として読み進めてもらえたらと思う。



「キミドリ」

引用元:Amazon さん

1993年10月23日にドロップされたグループ名と同名のアルバムがこの「キミドリ」だ。

インディースからリリースされたこのアルバムは、店頭に並ぶことなどほとんどなかった時代に、なんと、3万枚を売上げた!

文字だけにするとすごさが伝わりずらいが、当時としては、社会現象と呼んでも過言ではないほど、異例なことだったのだ。

なぜ、インディースのアーティストが、インターネットもなく、限られた店舗、物販、手売りのみでしか、販売できなかった時代に、これほどの枚数をセールスできたのか?

その答えが非常に面白い。

その理由は、ファンやヘッズよりも彼らの楽曲に熱狂したのが、他でもないラッパー達だったからである。

自分の好きなラッパーが推す、アーティストの楽曲=ヘッズが気にならないわけがない。

いわゆる、口コミなのだ。

当時人気だったラッパー達がこぞってキミドリはやばい!と口を揃えて発信していたのだろうか?

この答えはもちろんアルバム「キミドリ」の中にある。

冒頭でも触れたが、キミドリのリリックには自己否定や将来に対する不安、自分自身の生き方など、青春時代に抱える悩みが、赤裸々に語られている。

そんな悩みを、恥ずかし気もなく、ラップにしたことで、共感を生んだことがその答えだと言えそうだ。

自分達には自己がある。
自己があるから悩むんだ。

カッコよさを追求し、背伸びしてまで自分の強さを誇示していた当時のラッパーたち。

そんな彼らをしり目にキミドリは、弱い内面をさらけ出した。

憧れるっていうか、逆にカッコいいと思わざるを得ない。

これこそが、ラッパーたちが憧れ、嫉妬とした最大の理由なのだ。

その引き金を引いた楽曲が、このアルバムに収録されている「自己嫌悪」だ。

キミドリ
1. カネデカワレタカゴノトリ
2. 白いヤミの中
3. サソリに刺されたキミドリ
4. 自己嫌悪
5. つるみの塔 (Original Edit Version)
6. 無視されてるキミドリ
7. 大きなお世話 (Say What) feat ECD, RADICAL FREAKS, MC JOE, GUWASSI, 四街道NATURE, UG & TANIGUCHI From U.G. Man, Sone, Imazato
8. つるみの塔 (Electric Boogaloo)


先程触れた内容がこれでもか!と言わんばかりに詰め込まれており、聴けば、うんうん。分かる。分かる。ってな具合に涙するかもしれない 笑

CDには、歌詞カードも同封されているので、ぜひ、歌詞を読みながらビートに頭を揺らし、心で聴くことをおススメしておこう。


自己嫌悪

共感できるところしかないような気がするのは、僕だけではないだろう。

無駄だとわかっていても手をのばしたくなることもある

俺に誰だ 何者だ 何をすりゃいいのか

時々自分が不安になる

主義・主張なんて俺にはないけど自己だけは確立したいよ

なにかにつけて理由を考えている今日この頃

思春期だけではなく、今の自分が聴いても、まだ自問自答しているような悩みを、ストレートに表現してくれている。

youtubeに楽曲がアップされていたので、こちらも紹介しておこう。


「自己嫌悪」





オワラナイ〜OH, WHAT A NIGHT!〜

引用元:rate your music さん

1996年 1月17日 Cutting Egeより
メジャーデビューアルバム
オワラナイ〜OH, WHAT A NIGHT!〜
が、ドロップされた!

キミドリ」から約3年の時を経て、ドロップされた本作は、前作とは打って変わって、ノリにノれるパーティーチューンに仕上がっている。

こういうキミドリもあるんだ!なんて言葉が飛び交うような、ディープで脱力感満載の楽曲に仕上がっている。

なんだか騒ぎたい、日ごろのストレスなんかどっかいっちまえ!そんな夜に聴きたい一枚。

オワラナイ〜OH, WHAT A NIGHT!〜
01.オワラナイ(OH,WHAT A NIGHT)
02.よよよよ
03.シティ・ウォーキング・ブルース・ララバイ
04.なんてキミドリだ今日 feat.小玉和文

こちらも、youtubeに数曲アップされていたのでぜひ堪能して欲しい!

オワラナイ(OH,WHAT A NIGHT)

オールドスクールってこれだよな? と言わんばかりの最高にディープな楽曲。

なんだか、当時の映像が鮮明に思い浮かぶような気がする、、、



キミドリ まとめ

キミドリは活動期間が短いながら、90年代のシーンにおいて稀有な存在だった。

彼らはラッパーたちから絶大な支持を受け、20数年が経過した現在でも、”シーンに影響を与えたラッパー”に、必ず名前が挙がるほどだ。

彼らは共感を求めるよりも、自己の悩みを語りかけ、リスナーに”自分を表現する方法のひとつがラップ”ということを教えてくれたと、僕は思っている。

このようなスタイルのラッパーは数少なく、彼らのラップはまさに”遺産”と呼ぶにふさわしい。

現在のヒップホップシーンは、90年代に比べスキルもオリジナリティも向上している。

MCバトルもカッコいいんだけど、こういう弱い部分もたまにはいいじゃん。と、思ってもらえれば、本記事を書いたこともムダではなくなるよね。笑

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